【登美恵】が【富江】との逃避行の果てに、ホテルの屋上に登る件に関しては、【登美恵】は“心中”しようとしていたわけではなく、ただ厄介な【富江】を捨てたかっただけという皮相な見方をする人もいる。

しかし、ただ【富江】を捨てるだけなら、わざわざホテルの屋上まで登る必要なんてない。バッグに入れたままゴミ箱にぶちこめばいいだけの話である。

それに、部外者が勝手に屋上に侵入したら、警備員に見つかる危険だってある。そのリスクをあえて犯すからには、相応の決意があったはずだ。ただ【富江】を厄介払いしたかったというだけでは、動機として弱すぎる。

また「厄介払い説」に従ってしまうと、【富江】が夕焼けの公園で【登美江】に囁いた、「あなたとだったらいつでも死んであげる」という台詞が引き立たない。

その言葉を愚直に信じたからこそ、登美恵は富江と人生を共にすることを決めたのではなかったか。

《生活に困ったから捨てる》なんていう筋書きは、《人の心を虜にする魔性の女》という【富江】のキャラクター設定に反しているし、だいいち、あまりにも陳腐だ。

それよりも【登美恵】と【富江】の擦れ違いという意味合いを求めたほうが、物語におけるこのシーンの訴求力がいっそう高まることは明白である。やはり、僕は「心中説」を支持したい。