★★★★

アップリンクから発売されている手塚眞監督『実験映画』のDVDには、映像特典として監督が過去に手がけた短編映画が収められていた。『NUMANITE』はその中の一つ。

沼の底で暮らす、信心深い【ダニエル】と奔放な【ミランダ】の姉妹が、一人の男と三角関係に陥るという、「大人の童話」仕立ての物語である。

冒頭、重厚な沼の映像に、落ち着いた男の声でナレーションが被さる。環境ビデオを観ている気分になるが、沼というものが身近にないだけに、案外、引き込まれてしまう。

一転して本編が始まると、ナレーションが女性の声に変わり、物語を朗読していく。

姉妹の元に、一人の男が訪れた。やがて男は【ミランダ】と恋仲になるが、彼が本当に愛していたのは【ダニエル】の方だった。しかし【ダニエル】は、男を愛することができないので、その求愛を拒んでしまう。

……と、ここまではありがちな話。

ところが、途中から朗読の内容と実際の映像が違ってくる。

《男はダニエルに愛を告白しました》という件では、男がケダモノのように猛り狂い、【ダニエル】をむりやり手込めにする。そのショックで【ダニエル】は毒を飲んで自殺を図る。

《ミランダはダニエルが生き返るように神に祈りました》という件では、【ミランダ】が男をボコボコにシバき、家から叩き出している。それまでの宗教映画風の厳そかな雰囲気とはうってかわって、この展開はじつに痛快だ。

じつのところ、【ダニエル】と【ミランダ】が愛していたのは、男ではなくお互いのことだったのである。レズビアンである二人にとって、男はたんなる邪魔者にすぎなかった。

世に蔓延る異性愛至上主義に唾を吐くオチが新鮮だ。

スタイリッシュな映像も目に心地よい。沼の底を舞台にしているというだけあって、室内は、灰色を基調にした薄暗い質感。窓から僅かに差し込む光が、幻想的な空間を演出する。

また、生きたまま皿に載せられた魚がピチッとはねたり、小さい蟹の群がモゾモゾと蠢く様から、沼の湿った空気がリアルに伝わってくる。

もちろん「百合作品」としても秀逸だ。絡み合って互いの口に果物を運ぶ二人の仕草は妖しく、デカダンスな空気を醸し出す。

映画が終わる前に、もう一度、沼の情景が映される。真相は「沼の底」に沈められ、後世には耳当たりの良い物語だけが残る。「伝説」という胡散臭いものの本質を、シニカルに描き出している。

なお、同DVDにも収録されている『ダニエルとミランダ』は、同じ物語を手塚眞自身が描いた画で再現したアニメーション。父親譲りの画才を発揮しているが、沼の底の質感まで表現するにはいたっていない。5分しかないことだし(ちなみに『NUMANITE』は23分)、まぁ「オマケ」といったところだろう。