あぁ、とうとう輸入DVDにまで手を出してしまった……。

一時のDVD化再発ラッシュ、そしてヤフオクによって、かなりマニアックな映画を容易に観ることができるようになった昨今。しかし、それでも埋もれたままの作品もある。いっこうにDVD化される気配もなく、ヤフオクの検索やアラートにも引っかからない。そんな作品は、輸入DVD屋に頼るしかないのである。

ここで取り上げる『ALUCARDA』の存在を知ったのは、西新宿にある輸入DVD屋「ビデオ・マーケット」のホームページに掲載された解説文を読み、興味を持ったのがきっかけだった。

『鮮血の女修道院/愛欲と情念の呪われた祭壇』という邦題が記載されているところをみると、この映画、かつては日本公開されていたのだろうか?

修道女の少女ジュスティーヌは謎の美少女アルカーダ(Draculaの逆さ綴り)と出会い、黒魔術の世界に魅入られて行く。傴男の介添えのもと全裸で血をすすり合う二人。しかし修道院に魔女狩りの嵐が吹荒れ、少女達への凄惨な拷問が始まる…。全身血まみれの女吸血鬼、クライマックスの大虐殺シーン等、強烈なイメージが連続する必見作。監督のファン・モクテズマは『エル・トポ』のホドロフスキー師とも関係の深い要注意人物。特典多数収録。

この粗筋を読んで、いわゆる「魔女狩りモノ」なのかな、と予想した。魔女狩りモノは内容があまりにも陰惨で正視に耐えないものが多いので、正直、敬遠しようかとも思った。

しかし《黒魔術の世界に魅入られた二人の美少女が全裸で戯れる》というシチュエーションは、オカルト映画と百合映画が大好きな僕にとって、まさに盆と正月がいっぺんにやってきたようなものである。

いてもたってもいられなくなり、けっきょく買ってしまった。

で、実際に観てどうだったか。

まず、安心した。

懸念されていた魔女狩りのシーンは、「凄惨な拷問」などではなく、ただムチではたかれるだけの淡白なもの。まぁ、それでもいちおう血まみれにはなるのだが、指を潰したり舌を抜いたり熱した鉄の靴を履かせたり鼠をけしかけて腹から内臓まで食い破らせたりといった(これらはすべて実際の異端審問において魔女に行なわれたとされる拷問)、エグい描写はなかったのでホッとした。

一方、《黒魔術の世界に魅入られた二人の美少女が全裸で戯れる》というやつだが、これに関しても期待を裏切らない出来だった。

月明かりのさす真夜中の森、黒山羊の悪魔の前で繰り広げられる乱交。その、背徳的でありながら幻想的なムード――このシーンを見るだけでも、じゅうぶん元は取れた。主役を演じた二人の女優のルックスも申し分なし。

他にも、洞窟を利用して作られた修道院内部の質感や、荘厳さを通り越して不気味ですらある巨大なキリスト像など、エキセントリックな映像表現が度肝を抜く。たしかに、ホドロフスキー作品に通じる感覚がある。

しかし……残念なことに、それでも『ALUCARDA』は、失敗作と言わざるをえない。

作劇の「キモ」を、ことごとく外してしまっているからだ。

ファム・ファタールたる【アルカーダ】は、自己の持つ破壊的なエネルギーに恐怖し、泣き喚いたりする。

これが、たとえば『キャリー』のように《「平凡な少女が内に秘める底知れぬ闇》というテーマなら問題ない。

しかし、アルカーダの場合は、部屋の壁の影が姿を変えるという印象的な登場シーンからもわかるとおり、まるっきり「人外の者」という設定なのだ。

それならば、中途半端に情を見せるべきではなかった。人間臭さが出てしまい、悪魔の化身たる威厳が失せてしまった。

プロットにも欠陥がある。

ラスト、暴走する【アルカーダ】が対峙するのは、愛する【ジュスティーヌ】の遺体でなければならなかったはずだ。上掲の解説文にも謳われているとおり、二人の美少女が織り成すレズビアニズムこそが、この物語の基幹なのだから。

ところが、【ジュスティエーヌ】はクライマックスが訪れるのを待たずしてストーリーから除外された。主人公であるにもかかわらず、だ。

そのせいで、直後にやってくるクライマックスのカタルシスが殺がれてしまった。背景の書割ていどの脇役たちがどうなろうと知ったことじゃない。視覚的なインパクトに頼りすぎるあまり、ストーリーやキャラクター描写がおろそかになってしまった。

ま、B級ホラーにはよくありがちなパターンですな。

かくして、僕の淡い期待は裏切られてしまったわけだが、それでも後悔はしていない。取り留めのない幻想にいつまでも囚われているより、「現実」を目の当たりにしたことで、『ALUCARDA』という作品が、こうして僕の血肉となった。

そしてこれからも、情報を得るだけで満足せず、己の手で触れ、体験したものだけを糧としていきたいと思う。