山奥の農村に暮らす一家が、亭主の自殺をきっかけに離散する様を淡々と映し出す。

その亭主を演じる國村隼を除いて、ほとんどのキャストは現地の素人を起用するという、実験的な手法が採られている。

だが、そのせいもあって全体的に台詞がぼそぼそと聞き取りづらく、劇中の人間関係はおろか、今、画面で何が起こっているのかすら、まるで把握できない。

たとえば、亭主の自殺の原因が、従事していた鉄道トンネル工事の中止によって職を失ったことだったというのを、何の予備知識もなく観て即座に把握できた人はいるだろうか?

私などは、きょくりょく先入観を排して鑑賞に臨む主義なので、観終えてからネットで作品の解説を検索し(レンタルで借りてきたのでパッケージは手元にない)、「言われてみれば、村のおじさんたちが寄り集まって何かの話し合いをしていたシーンで、國村さんは思い詰めた顔をしていたなぁ」「國村さんが幼い子供たちを引き連れてトンネルを歩くシーンが印象に残ってるなぁ」といった具合である。

いや、それどころか父親の自殺そのものが、深夜に一家の元へ警察から電話がかかってくるという回りくどい演出でしか説明されない。しかもその直前に彼が8ミリビデオで村の人々を撮影していたというエピソードも、(以前から趣味にしていたというならともかく)何の前触れもなくビデオが出てくる必然性が理解できず、ただ混乱するばかりだ。

また、物語の中では15年の年月が経過しているというが、テロップ等による説明は一切ない。たしかに子供たちは幼児から学生に成長しているけれど、父親の國村に変化がないので、序盤に登場する幼児たちと唐突に出てくる若者たちが同一人物であることに気づくのにさえ時間がかかる。

このような、監督の中で自己完結した独り善がりな映画が、なぜ海外でもてはやされ、賞をいくつも獲得しているのか?

考えてみるに、海外で上映されるバージョンには、字幕がつく。そのおかげで台詞の内容も難なく把握でき、観客は過疎化した農村のノスタルジックな空気に安心して身を任せられたのだろう。だが、当然ながら国内版DVDに字幕機能はない。