★★★

夏の怪談でおなじみの稲川潤二だが、映画監督もやっていた。

本作は、初の劇場公開用作品。3話構成のオムニバスとなっている。

第1話『旧日本軍の病院』は、タイトルそのままの内容のオリジナル・ストーリー。

第2話『サーファーの死』は、稲川の怪談レパートリーとして有名なエピソード。

第3話『首なし地蔵』は、ラフカディオ・ハーンの『骨董』にも『幽霊滝の伝説』として収録された不気味な民話をベースにしている。

さて、本作は「稲川淳二監督作品」と銘打たれているが、実際に稲川が監督したのは『首なし地蔵』のみ。あとの2作品は、三宅雅之なる人物が手がけている。

『リング』や『呪怨』が登場する以前に作られた映画であるにもかかわらず、すでにストレートでインパクトのある怪奇描写に挑戦しているのが興味深い。『サーファーの死』の、水死体にしがみつく老婆の造形なんて、もう完全にモンスター映画のクリーチャーだ。

『首なし地蔵』ではCGを駆使し、田舎のグロテスクな昔話をスプラッターに仕上げてしまった。

とくに後者は必見である。真夜中にも関わらず、突然、空が灰色に変わるという演出は、このエピソードの舞台となる森が、日常世界の自然法則から乖離した異空間と化したことを表現しているのだろう。

その上、老婆が背負った赤ん坊の首に、空中から現れた魔物の手が伸び、顔の皮膚を毟り取ってしまうシーンのおぞましさたるや、ホラーにそれなりの免疫がある私でさえ再観をためらうほどである。

CGは無機質な感じがするので、ホラーには向かないと考えていたが、本作では、そのチープさが観る者の不快感をいっそう引き立てている。それが、本能的な恐怖に直結する。

本来なら忌むべきものである「恐怖」を、「エンターテイメント」として観客に提供するという発想。愚直なまでにわかりやすく、泥臭いグロ描写。稲川映画はハーシェル・ゴードン・ルイスとの接点を少なからず持っているように思う。

が、その一方、「恐怖」以外の要素に関しては、趣味が悪い。『旧日本軍の病院』の取って付けたような反戦メッセージは胡散臭くて白けるし、『サーファーの死』で何の必然性もなく登場人物がセックスしだすのには失笑させられた。