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《和》のイメージを強く打ち出し、熱き漢の生きる道を体現した異色ダンス・グループ「一世風靡SEPIA」が主演する短編映画。

「ソイヤソイヤ」という奇怪な掛け声が耳を突く、代表曲『前略、道の上より』と、そのシングル盤のB面に収録された、これまた男臭いスポークン・ワード『セピアカラー』を軸に、スラップスティックな群衆劇を繰り広げている。

一世風靡SEPIAが解散し、メンバーはそれぞれ別の人生を歩むことになった……という設定。

しかし、ストリートで踊るために生まれた彼らは、社会に順応することができない。

監督は『爆裂都市』『狂い咲きサンダーロード』でその名を馳せた石井聰亙。ありあまるエネルギーを炸裂させる彼の手腕は、この『現在が好きです』においても、あますところなく活かされている。

『前略、道の上より』に乗せて、SEPIAの面々がやらかす狂態の数々。

たとえば哀川翔は、コンピューター・プログラマーに就職したものの、ブラインド・タッチすらできず、ひたすら指一本でキーボードを乱打する。

柳葉敏郎は太った妻と鉄板焼き屋をオープンしたが、わがままな客たちから飛び交う注文の嵐に耐えきれず、料理をそこらじゅうにぶちまける。

警官になった春海四方は、勤務中だというのにウォークマンを聞きかじり、興奮のあまり発砲してしまう。不条理なまでに強烈なパワーが、画面から渦を巻いて襲いかかってくる。

しだいにフラストレーションを募らせていくSEPIAに、ある日、謎の招集がかけられる。

そこは、かつてSEPIAがコンサートの舞台として使っていた倉庫。『セピアカラー』の歌詞に登場する、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョン・レノン、ジェームス・ディーンらのポスターが、壁一面に引き伸ばされて飾ってある。あのころの熱気を思い出せ、と言わんばかりだ。

ところがSEPIAたちは、再会して早々、いきなり互いを罵り始める。日常に埋没し、かつての誇りを失いかけた仲間に、彼らは不信感をぶつけていく。

さて、一世風靡SEPIAと言えば、哀川翔、柳葉敏郎、小木茂光といった、味のある役者たちを輩出したことでも知られている。だが、『現在が好きです』で見せる彼らの演技は、悶絶するほどのヘタクソさで、後の活躍ぶりとはとても結びつかない。それだけに、今となっては貴重な映像と言えるが、本人たちにとっては恥ずかしいのかも。

殴り合いの末に和解し、ふたたびストリートに繰り出すことを決意したSEPIA。『セピアカラー』に乗せて、冴えない普段着のまま踊り始めた。

しかし、やがて倉庫を出ると、いつのまにか衣装が、グループのトレード・マークである「ズート・スーツ」に変わっている。

伝説のパフォーマンス・グループ、一世風靡SEPIAが再起動したのだ!

激しいダンスを踊りながら、町を練り歩くSEPIA。

すると、SEPIAに触発された町の人々が、SEPIAといっしょになって踊る。

やがてBGMは『前略、道の上より』に変わり、道行く人たちの熱い視線を浴びながら、SEPIAは全身全霊の舞を披露する。

パフォーマーと観客が垣根を越え、一体となって町を揺り動かすという、この映画の筋書きは、まさしくグループのコンセプトでもあった。それは、彼らが結成当時から一貫して「道」というキーワードを掲げていたことからもわかる。

『現在が好きです』は、SEPIAの気迫と石井監督の熱意が相乗効果をもたらし、有無を言わさぬインパクトで観客に迫ってくる。ただ自己顕示欲を満たすだけのセコいパフォーマンスでは味わえない、群衆をも巻き込んで生み出されるエネルギーの凄さは、「感動」という言葉の本来の意味を教えてくれるだろう。

レオタードを着て踊るオバちゃんの、ニカ~っとした笑顔がイイ味を出していた。