ホラー映画マニアたちからはすこぶる評判の悪い「伊藤潤二作品実写化シリーズ」の一つ。

タイトルは『案山子』となっているけれど、実際のストーリーは『墓標の町』という作品に準拠しているらしい。

野波麻帆演じる主人公は、失踪した兄を追いかけ、トンネルの向こうにある村を訪れる。

しかし、その村は、ある少女の悪霊によって支配されていた。

その少女は、かつて主人公の兄に恋心を抱いていたが、主人公に妨害されたと勝手に思いこみ、悔しさのあまり自殺したのだった。

実際、主人公は、実の兄に近親相姦的な愛情を抱いているのだ。

案山子に死者の命が乗り移り、襲いかかってくるという設定は悪くない。だが、その発端となった少女の自殺の理由が、たんなる失恋というのは肩すかしだ。村の野蛮な男衆に輪姦されたとか、それくらいのインパクトがないと、怪異を巻き起こす動機として弱すぎる。そもそも、男に振られたくらいで自殺するというのが、いささか短絡的。「設定のための設定」という感じがして説得力がない。

その幽霊を演じるのは、柴咲コウ。実力派として名高い女優だが、この映画に関してはミスキャストだと思う。

たしかに美形ではあるのだけれど、老け顔のわりにタッパが足りず、ちぐはぐな印象を受ける。とくに、主人公の兄と抱き合ったまま炎に包まれるシーンでは、あまりに身長差が目立ち、貧相な感じがしてしまうのだ。

一方の野波は、柴咲とは対照的に顔立ちがあまりにも野暮ったい。脇役で添えるならまだしも、主役を張らせるには華がなさすぎる。

じつのところ、この映画は人間よりも、草で編まれた大きな風車が存在感を示す。夜の空き地にそびえ立ち、注連縄と無数の案山子に囲まれながら、ギシギシと音を立てて回る光景。

このシーンだって、幻想的に演出しようと思えばできただろうに、ただセットを組んで設置しましたという作り物っぽさしか感じられない。

村から逃げ出そうとする主人公が、兄の霊に呼び止められ、けっきょく引き返しまうというエンディングも同様である。トンネルに響く兄の声がなんだかマヌケで、ちっとも胸に響いてこないのだ。実兄に対する主人公の執念を印象づける重要なシーンだけに、もうちょっと気合いを入れて撮ってほしかった。

ストーリーは消化不良。役者は魅力皆無。おまけに、演出のセンスも拙いとあっては「雰囲気モノ」としてすら楽しめない。もちろん、怖くもない。いったい何を表現したかったのか、さっぱりわからない映画だ。

監督の鶴田法男は、『ほんとにあった怖い話』シリーズや『戦慄のムー体験』のような「実話モノ」では優秀な仕事をしているのに、本作や『リング0 バースデイ』のような現実離れした設定の物語だと、とたんに精彩を欠く。適材適所、ということだろうか。