★★★

伊藤潤二のホラー漫画を実写化したドラマ。主演は『さくや妖怪伝』の安藤希。

高校を舞台に、自分の顔を狙った相手と同じ形に変化させる妖怪【亀井桃子】の恐怖と悲哀を描く。

安藤が演じたのは、【亀井桃子】に顔を“盗まれた”女子高生と、その変身後の【桃子】。一人二役を見事にこなしている。

また制服や私服はもちろんのこと、シェイクスピアの劇を演じてみたり、体育館でスケ番にボコられてみたり、ピンク色のヘンなお面を付けてみたりと、様々なシチュエーションで楽しませてくれる。男性とのキス・シーンもあり。

そして安藤自身も、場面に応じて豊かな表情を見せる。感情を抑制したクールな演技を得意とする安藤だが、それでもけっして一本調子な印象を与えないのは、こういう感情表現の基本がしっかりできているからだろう。

『顔泥棒』を観ていて興味深いのは、後に安藤が主演する、同じく伊藤潤二原作の映画『富江 最終章 ~禁断の果実~』と、期せずして対照をなしている部分があることだ。

たとえば『富江 最終章』では、宮崎あおい演じる主人公の書いた小説を、安藤演じる【富江】がふざけて朗読するシーンがある。

しかし『顔泥棒』では、逆に安藤演じる主人公が、勝手に自室に上がり込んだ【亀井桃子】に、自分の日記を読み上げられてしまう。

また『富江 最終章』では、主人公が【富江】のワガママに振り回される格好となっていたが、『顔泥棒』では「変身後の桃子」を演じる安藤がスケ番に気に入られるため、拷問じみたいじめを甘んじて受ける。

このように同じ役者が正反対の立場を演じるというのは、けっこう珍しいのではないだろうか。

また、【桃子】がスケ番に擦り寄る様は、彼女がバイセクシュアルであることを示唆しており、そういった意味でも【富江】と若干キャラが被っている。

安藤希の演技力と愛らしさを楽しむアイドル映画としては、じゅうぶんに満足できる。とはいえ、作品そのものの仕上がりは詰めが甘い。

たとえば、主人公たちが【桃子】を退治するため、彼女を取り囲んで踊るシーン。【桃子】の顔は、変化に堪えきれず、ついに崩壊してしまう。

が、ここで主人公たちが付けているお面は、縁日で売っているような安っぽいもの。コミカルな軽快さを演出しようとしているのはわかるけれど、貧乏臭い印象は免れない。もう少し見せ方に工夫が欲しいところだ。

また原作ではそのシーンで終わり、気味の悪い余韻を残すが、実写版ではオリジナルのオチが付け加えられた。主人公の恋人は、顔を喪った【桃子】に同情し、なんと主人公を捨てて【桃子】と二人で町を去るのだ。

しかし彼の心境の変化が描かれていないため、取って付けた感じがしてしまう。主役の安藤希だけでなく、他のキャラクターも掘り下げて描く必要があったということである。