『エイリアンVSプレデター』『ジェイソンVSフレディ』などのブームに便乗して、適当な海外のB級ホラー映画を輸入したものの中の一つ。日本版DVDはジャケットも邦題も、はてはクレジットの表記やタイトルバックに至るまでそれら「VS物」のフォーマットにむりやり合わせて改変されている。

が、原題は『CARMILLA THE LESBIAN VAMPIRE(レズビアン吸血鬼カーミラ)』。元ネタは言わずと知れたレ・ファニュの古典怪奇小説『吸血鬼カーミラ』であるが、劇中に登場する「レズビアン吸血鬼」の名前を除けば、舞台は現代だし、ゾンビは出てくるし……と、これはこれでまったくオリジナルの内容となっている。

満月の夜、少女がふと眠りから覚めると、暗闇の奥から見知らぬ美女が這い寄ってくる――ミステリアスかつ官能的なオープニング・シーン。その少女が本作の主人公【ジェンナ】だ。

やがて、場面は【ジェンナ】が父親の運転する車に乗り、人里離れた道を走るシーンに切り替わる。

カーラジオから流れるニュースは、近頃蔓延している奇病について報じる。その病気にかかると、なぜか急に人間を襲って生き血を吸うようになり、やがてはゾンビと化してしまうのだという。

すると突然、女が道路に飛び出してきた。

路上に停めてある彼女の車には、他に2名の女が同乗している。うち片方が例の奇病に感染してしまったとのことで、もう片方の女を感染の危険から守るため、【ジェンナ】親子に連れ出してほしいと依頼する。急な話に戸惑う親子だったが、こうして旅の仲間が新たに加わった。

女の名は【カーミラ】。彼女は、あの満月の晩にジェンナの寝室に侵入した女と瓜二つだった。

ほどなくして、【ジェンナ】と【カーミラ】の間に愛が芽生える。

ゾンビ化した青年を殺したことから、彼の運転していたジープを手に入れた【ジェンナ】は、いったん父親と別れ、【カーミラ】と二人で旅を続ける。

白昼堂々、人気のない路上に車を停めた【ジェンナ】は、【カーミラ】の甘美な愛撫を受けるのだった――。

さて、この映画の特色として、2本の異なった時間軸がパラレル・ワールドとして展開するという、ひじょうにトリッキーな構成を成している。

仮にこれまでの時間軸を<A>とすれば、もう一方の時間軸<B>において、【ジェンナ】もまた奇病に感染しており、父親によって隔離施設に送られたという筋書きになっている(なお、日本版DVDの解説文では両者を同じ時間軸で扱っているが、そうなると、父親と旅をする【ジェンナ】が吸血鬼化していないことに矛盾が生じてしまう)。

そして、施設の看護師として登場するのが【カーミラ】である。またこの時間軸においてもやはり恋に堕ちた二人は、施設を脱走する。

やがてストーリーは時間軸<A>に戻る。【ジェンナ】と【カーミラ】は、待ち合わせ場所のかつて修道院だった建物で父親と落ち合う。

しかし、なぜか【カーミラ】はそこで姿を消してしまう。

その後、【ジェンナ】親子は、行方不明の娘を探すヴァンパイア・ハンターの男【将軍】と合流する。

【将軍】によれば、【カーミラ】の正体は吸血鬼であり、また彼女こそが奇病の発端なのだという。

ところが、ここへきて吸血鬼と化した【将軍】の娘を殺したのが、じつは【ジェンナ】親子であったという“真相”が唐突に明かされる。

復讐に駆られた【将軍】の手によって瀕死の重傷を負わされる【ジェンナ】の父。

しかし、娘が襲い掛かってきたことでようやく【将軍】も納得し、3人は諸悪の根源である吸血鬼【カーミラ】を打倒するため、修道院の地下に潜入する。

襲い来るゾンビの群れを撃退し、【カーミラ】の棺と対面した3人。

しかし、じつは【ジェンナ】は【カーミラ】と密かに結託していて、愛する彼女を脱出させる機会を狙っていたのだった。

父と【将軍】が棺の重い蓋を開けたと同時に、背後から【カーミラ】が姿を現し、【ジェンナ】と二人がかりで男たちを殺してしまう。

こうして時間軸<A>は、修道院を出た【カーミラ】と【ジェンナ】がジープに乗って逃走するところで終わる。

一方、時間軸<B>では、施設から駆け落ちした二人がモーテルに入ったところで、暗がりに潜んでいたゾンビの群れに襲われ、生きたまま貪り食われるという悲惨なオチで幕を閉じる。

妙に凝った作りになっているけれど、観ていてややこしいだけで、深いテーマや信念があるようには思えない。他にも【ボブ】と名乗る黒衣の美女が、二つの時間軸にまたがって思わせぶりに登場するものの、何の意味もなくどこかへ消えてしまう。

ゾンビのメイクは、ただ顔を緑色に塗っただけという手抜き具合で、かの迷作『ナチス・ゾンビ』を髣髴とさせる。そう考えると本作は、低予算のレズビアン吸血鬼映画で知られるジャン・ローラン監督へのオマージュなのかもしれない。