ジャン・ローラン(オリジナル)版 ★

ジェス・フランコ(ディレクターズ・カット)版 ★★★

もともとはジェス・フランコの監督作品であったにもかかわらず、後にジャン・ローランが監督したシーンを追加し、まったく別の映画として公開されたという、曰く付きの一品。ややこしい経緯ではあるけれど、耽美ホラーの2大巨匠によるコラボレーションが、期せずして実現してしまったというわけだ。

しかしジャン・ローランが担当したのは、ゾンビが登場するシーン。彼の得意とする幻想的な演出は、まるで活かすことができない。しかも、ただでさえ演出力がシロウト並と揶揄されることの多い人である。

案の定、噴飯モノの出来になってしまった。顔を緑色にペイントしただけの安っぽい造形からして力が抜ける。その上、ゾンビたちは、ただ主人公の少女の髪を引っ張ったり体にベタベタ触ったりするだけで、なんだかガキのイジメみたいだ。

加えて、主人公のモノローグや整合性の希薄なプロットといった、ジェス・フランコ作品特有のリリカルな演出が、悪い意味で“お芸術”じみた難解さにつながる。

結果『バージン・ゾンビ』は、ゾンビ映画愛好者たちから「史上最低」の烙印を押されてしまった。

ちなみに、作風が似ているためか、ジャン・ローランはこの後にもジェス・フランコの代役を務めている。しかし皮肉なことに、またしても「ゾンビ物」。結果、ローラン本人ですら失敗作と認めざるをえない出来に仕上がってしまった。

そのタイトルは『ZOMBIE LAKE』(邦題は『ナチス・ゾンビ 吸血機甲師団』)。あまりにも悲惨な内容のため、ジャン・ローランはそれ以降、フランスの映画業界から干されてしまったというほどだ(いちおう「J・A・レイザー」という変名で出したのだが……)。

* * *

さて、このたびの日本版DVDは、ジャン・ローランが手がけたパートをばっさりと削除し、ジェス・フランコ自身が撮った未公開映像を追加した「ディレクターズ・カット版」である。

加えてジャン・ローランが手がけた「オリジナル版」も丸ごと収録されており、じつにお得なアイテムとなっている(ただし、なぜかこちらは画質がひじょうに粗い)。

「ディレクターズ・カット版」には、ゾンビはいっさい出てこない。したがってホラーというよりも、むしろ風変わりなポルノ映画といった格好に仕上がっている。

稚拙きわまりないホラー演出が一掃されたぶん、ジェス・フランコの描く甘美な世界に、安心して身を委ねることができる。

中でも、冥府の女王となりし少女を囲んで、白昼堂々、全裸の男女が乱交を繰り広げるというデカダンス溢れるシーンは、なぜかオリジナル版には未収録だった。少女が死者たちを従えて沼へと沈んでいくエンディングも、ディレクターズ・カット版ではもっと長い。

『バージン・ゾンビ』の「ディレクターズ・カット版」は、「オリジナル版」とはまったく別の作品として捉えた方がよいくらいだ。

これはこれでなかなか味わい深い作品ではあるものの、ジェス・フランコの代表作である『ヴァンピロス・レスボス』や『吸血処女イレーナ』と較べると、いささか地味で、キャッチーさに欠ける感は否めない。

加えて、主人公が父親の亡霊の前で死者たちに輪姦されるという件は、あまりにも品がなさ過ぎる。このシーンのせいで作品全体が低俗な印象になってしまったのは残念だ。