★★★★
2006年から2007年にかけて、堀北真希と黒木メイサをフィーチャーした作品が複数の媒体で制作・発表された。共に同い年で、同じ芸能プロダクション(スウィートパワー)に所属する二人だが、清純派の堀北にセクシー系の黒木という正反対のキャラクターがもたらすコントラストがセールス・ポイントとなっていた。
2007年4月に発売されたDVD『きみのゆびさき』は、『tokyo.sora』『好きだ、』で知られる石川寛が監督・脚本を務めた短編映画。
田舎町の海岸にて、高校の同級生という設定の堀北と黒木が、お喋りしたりじゃれあったりしている様を淡々と映す。曇り時々雨の空模様も相俟って、瑞々しさよりもアンニュイな空気が漂う。
ストーリーらしいストーリーはないが、堀北には【マキタ】、黒木には【フジサワ】という役名が与えられている。互いに下の名前でなく、苗字で呼び合うあたりが、不思議な距離感を醸し出している。
さて、堀北×黒木のコラボレーションでは、篠山紀信撮影による写真集『Missmatch』(2006年7月発売)における、結婚式を模したシチュエーションでのキス・ショットが話題を呼んだ。『きみのゆびさき』が撮影されたのは、特典映像のメイキングを見ると『Missmatch』発売前の2006年5月ということだが、本作もまた「百合萌え」を意識した作りとなっている。
たとえば、「空は好き?」という【フジサワ】の問いかけに【マキタ】が「好き」と答えた後、【フジサワ】が再びあらためて「……好き?」と訊くシーケンス。この時、さりげなく主語が「空」から「私」に置き換わっていることが、言外のニュアンスとして伝わってくる。そしてそれは、【マキタ】による「海も空も好きだけど【フジサワ】も同じように好きだよ」という告白によって裏打ちされる。
もっとも『Missmatch』とは異なり、ダイレクトに「同性愛」のイメージを表現しているわけではない。むしろ、こうした二人の関係を「同性愛」と規定することで、繊細なニュアンスが失われてしまうという意見もあるだろう。
しかし同時に、それを「友情」の範疇に押し込めることによって失われてしまうものもあるのではないだろうか。
しいて言葉を当てはめるなら《友達以上恋人未満》ということになるだろうか。現実の人生とは異なり、映画は“切り”のいいところで終わってしまうので、二人の「結末」を観客が知ることはない。
本作は、二人が右手の「ゆびさき」を重ね合わせ、互いに掌を開いたり閉じたりしながら、その間に「何かが在る」感触を楽しむシーケンスの後に幕を閉じる。
他人(観客)の目には見えないが、二人の間だけで確実に存在するもの。
この短編映画は、さながらそれを顕現させるための“儀式”と言える。