『水の記憶』『風の記憶』に続く、安倍麻美のプロモーション短編映画3部作の第3弾。3rdシングル『きみをつれていく』のカップリングDVDに収録された。

建築家を目指す女子高生が、夏休みの朝、受験勉強のために図書館へ向かう途中で、バスをうっかり乗り過ごしてしまう。

乗り過ごしてしまったなら次の停留所で降りて引き返せばいいと思うのだが、いつしかバスは現実世界の日常を離れ、主人公の記憶にある人々が一人ひとり乗り込んでくる。親友、両親、初恋の男子――そして自分自身。

明確なストーリーはなく、ただ田舎の町並みを背景に、ぼんやりとした映像が、ぼんやりとしたモノローグと共に流れていく。

前述の『きみをつれていく』がフィーチャーされているが、ディストーション・ギターが鳴り響くゴシック・メタル調の荘厳な曲調は明らかにミスマッチで、小ぢんまりとしたノスタルジックな世界観を台無しにしている。

タイトルの「空」は、最後に夢から覚めた主人公が(夢オチ!)夕焼け空を見上げるシーンがあるだけで、ストーリーとまったく関係なく、これまた取って付けた感が否めない。

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2003年のデビューの年に発表された短編映画3部作は、同年の末に『a girl ~ I wish upon a song~』というタイトルで1枚のDVDにまとめられている。

同ソフトには他にもメイキング映像とシングル曲のビデオ・クリップおよびTVスポット、さらには安倍麻美自身のオーディオ・コメンタリーを追加、しかも2種類の写真集とトレーディング・カードまで封入した、サービス精神てんこ盛りな内容となっており、当世のトップアイドルの実妹を売り出そうという芸能事務所(ちなみに「ハロプロ系」ではない)の意気込みが感じられる。

また『きみをつれていく』を含めた3rdシングルまでの楽曲と1stアルバム(加えて翌年1月発表の4thシングル)は、そのすべてが筒美京平の作曲、作詞の大半が326(一部の作詞は本人)ということでも話題を集めた。もっとも当時はデビュー早々、スキャンダルで“炎上”していた真っ只中でもあったけれど……。

その後の安倍麻美はTVゲームのテーマ曲を歌ったり、小説家としてデビューしたり、バラエティ番組に進出するなど地道に活動をしていたが、2011年の結婚(相手はヴィジュアル系ミュージシャン)を機に芸能界を引退。

5年後に結婚した姉のなつみも、今となってはハロプロ系のイベントに顔を出すていどであり、姉妹ともに妻として、母としての堅実な人生を歩んでいるようだ。