★★★
『踏切に立つ少女』と『まちぼうけ』の2作品からなる、オムニバス形式のホラー映画。
前作『心霊』に引き続き、本作も「稲川淳二監督作品」と銘打たれているが、実際に稲川自身が手がけたのは『まちぼうけ』だけ。『踏切に立つ少女』の方は、前作にも携わった三宅雅之が監督している。
特筆すべきは『踏切に立つ少女』。なんと、鈴木杏のデビュー作なのだ!
当時、まだ小学生だった鈴木が演じるのは、主人公を逆恨みし、復讐を果たすために現れる幽霊。
さすがに台詞はまだおぼつかないものの、表情の作り方がじつに巧く、その後の活躍を予見させる。とくに、主人公と対峙したときに見せる、あの不敵なせせら笑いは、不気味でありながらもどこか惹き込まれるものがあり、悪の魅力を体現していると言えよう。
ただ、ストーリーはあまりにも杜撰。
主人公につきまとう幽霊は、そもそも学校で死んだことになっているのだから、本来なら「踏切」に結びつける必然性がない。ところが、それを強引に結びつけたものだから、観ている側はわけがわからない。明らかに企画倒れだ。
とは言え、先述した鈴木杏の演技力、そしてハラワタが景気良く飛び散る、サービス精神旺盛な演出には好印象。田舎町が舞台ということもあって、古びた家屋や川辺の光景がもたらす、ノスタルジックな空気も心地よい。リコーダーで奏でられる牧歌的なBGMも、逆説的に不穏なムードを高めている。
しかし、もう一方の『まちぼうけ』。これはいただけない。
ラスト、幽霊と対面し、恐れおののく主人公たち。ところが、その後に続くシーンでは、何事もなかったかのように問題の旅館を去っていく。その間の過程が、まるっきりすっ飛ばされているので、唐突な印象を受けた。けっきょく酔っぱらって幻を見ただけなんじゃないの? という疑問すら湧いてしまう。
『まちぼうけ』は、稲川が実際に体験した出来事を再現しているという触れ込みなので(主人公も稲川自ら演じている)、大胆に脚色するわけにはいかなかったのだろうか。しかし、ただ「幽霊に遭いました」というだけのお話なら、わざわざ映画にする必然性がない。前作の強烈なショッカー演出から一転して、中途半端に「リアル」を追求してしまったのが裏目に出た。
それにしても、イマドキあの垢抜けないギャグ・センスはどうにかならないものか。ドラマの緊張感を思いっきり下げているし、かといって笑えるわけでもない。稲川の人柄を反映していると言えなくもないが……。