★★

「モーニング娘。」の安倍なつみの妹、安倍麻美のアイドル・デビューにあたって、初期3枚のシングル初回盤にはそれぞれ麻美を主演に据えた短編映画のDVDがカップリングされていた。本作はデビュー曲『理由』の初回盤に収録。

退屈な毎日を過ごしていた女子高生が、内なる声に導かれ、この世界に生まれた喜びを知るという筋書きだ。

おのずと注目が集まるのは、安倍麻美の演技力。

これが、意外に巧いのだ。表情の作り方も滑舌もスムーズで、漠然とした不安に苛まれる少女の心理を、繊細に表現している。

お姉ちゃんも女優として活動しているが、彼女のほうは妙に気張った芝居が鼻について、正直、巧いと感じたことはなかった。

そのぶん、麻美は歌唱力でかなり引けを取っているけれど、役者には向いているように思う。あの野暮ったい顔立ちも、アイドルとしてはマイナスかもしれないが、ただ整っているだけで面白みのない「美人」にはない、独特な存在感がある。これは、役者にとって強い武器になるはずだ。

生命のイメージを湛えるプールと、住宅街の無機的な質感とのコントラストも目に心地よい。役者も映像も申し分ないが、ただ問題は、ストーリーがあまりにもイージーなこと。

ラスト、主人公は家族から祝福されて生まれてきたということを思い出し、自らの幸せな境遇に感謝する。それまでの物憂げな雰囲気から一転して、軽快なエンディング・テーマが流れる構成は、たしかに教科書通りではあるだろう。

しかし残念ながら、主人公の出した結論は、彼女自身にしか当てはまらない、普遍性に乏しいものだ。実の親から虐待された挙げ句、幼いまま死んでいく子供たちのことを思うと、どうにも御都合主義の感が否めない。たとえ誰からの祝福も受けずに生まれてきたとしても、人は生きていく権利があるはずだ。