《男の欲望》を喰って生きる女妖魔【セイレーン】の恐怖をエロティックに描く。90年代から続くVシネマ・シリーズの通算第5作、00年代に入ってから最初の作品である。

エロスと怪奇の組み合わせと言えば、即座に思い浮かぶのはジェス・フランコやジャン・ローランの女吸血鬼物で、ああいった耽美幻想的なムードを期待してしまう。

ところが本作の世界観は、むしろその対極にある。

メインとなるのは、ギャングたちのお寒い会話劇。ラウド・ロック調のけたたましいBGMも、安っぽさに拍車をかける。

例によってギャングたちは、互いの不信感が高じて自滅していく。しかし、その仲間割れの過程に、肝心の【セイレーン】はほとんど絡んでこない。男たちの性欲を弄ぶというのが【セイレーン】の役所なのに、ギャングたちの関心は、もっぱら強奪した金の使い道であって、彼女のことなど二の次なのだ。

つまり、この物語は【セイレーン】がいなくても成立してしまう。その時点で企画倒れだ。

加えて、【セイレーン】のキャスティング自体にも問題がある。

本作で【セイレーン】を演じたのは、現役当時、人気絶頂だったAV女優の蒼井そら。肉づきの良いボディと、幼さの残る素朴な顔立ちのギャップが魅力の彼女だったが、じつのところ、あの田舎の中学生みたいな顔で気取ったセリフを言われても学芸会にしか聞こえないのである。後にアジアのスターとして君臨することなど、誰が予測しただろう。