★★★★

オカルト物の企画ビデオの中で、何よりも退屈なのが「心霊スポット探訪」である。

一生陽の目を見ることはないであろう底辺アイドルが、真夜中に人気のない場所でビデオカメラと懐中電灯をもって誰かいるだの何か聞こえただのと泣き喚く。でも画面の向こうの視聴者には何の気配も伝わらない。さらにはそうやって撮られた素人映像を“検証”し、ここに霊が写ってるだのこれが霊の声だのと言い張るのだが、何度巻き戻して確認しても単なる風のノイズや壁の染みとしか思えず、なんだか仲間はずれにされているみたいな気分になってくる。シリーズ化されている作品もあるのでそれなりに需要はあるのだろうけれど、私などはせいぜい自宅の近所が取り上げられている時くらいしか観る気になれない。

しかし1989年に発売された『幽霊の名所案内』というビデオは、そういったわざとらしい演出を排し、被写体となる「場」をストイックに映すことで、上質の怪奇映画に通じる緊張感と神秘性を作り出すことに成功している。

『プロジェクトX』の田口トモロヲに酷似した、抑制された声と絶妙な“間”が紡ぐナレーション。過度に自己主張することなく、それでいて不穏な空気を醸し出すBGM。DVDの普及に伴う収録時間の拡大により、やたらと冗長な作品が目立つ中、30分という時間も潔い。

取り上げられている場所は下記のとおり:

  • 正善橋(埼玉県寄居町)
  • 雄蛇が池(千葉県東金市)
  • お伊勢の森(東京都杉並区)
  • 灯明崎(神奈川県横須賀市)
  • 五本けやき(東京都板橋区)
  • 青木が原樹海(山梨県)

その内「五本けやき」のみ血塗れの手がフラッシュバックするという演出がなされているけれど、鼻につくほどではなく、むしろ淡々とした映像が続く中で良いアクセントとなっている。

また「雄蛇が池」では、ろくに道もないような森の奥にまで入り込み、人知れず佇む墓を探し出す。いざ素人が心霊スポットに足を運んでも、よほどのマニアでないかぎり、服が汚れたり蛇などに遭遇することを恐れてなかなかそこまで深く潜入する気にはなれないものである。

青みがかった画面の中、ボートに乗って池を遊覧するシーケンスも、幽玄な叙情性たっぷりで、さながら“オカルト・マニアのための環境ビデオ”といった趣だ。

参考資料:

『映画秘宝COLLECTION 心霊ドキュメンタリー読本』

(小池壮彦 洋泉社)