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インターネットの動画配信サイト「GyaO(ギャオ)」で放映されていたドラマ。

安倍なつみが、主人公の【千(せん)】を演じる。【千】名義でリリースした同タイトルの歌が、ストーリーの下地となっており、さながら長編プロモーション・ビデオといった形だ。

5歳の時に病気で母を亡くし、15歳になってから、阪神淡路大震災で父と死に別れた、孤独な主人公【千】。今は上京し、一人暮らしをしているが、バイト先のガソリン・スタンドではミスばかりして店長に怒られ、恋人にも振られてしまい、暗い毎日を送っている。

そんな【千】が、男手一つで自分を育ててくれた父の愛を振り返りながら、ささやかな希望を求めて生きる姿を描く。

これといって重大な事件が起こるわけでもない、ありふれた日常を淡々と綴る。むやみに悲劇を煽り立てるようなあざとさがないため、自然と感情移入できる。制作者の良心が感じられるドラマだ。

が、それだけに、エンディング・テーマのCDを劇中の役名でリリースするという、メディアミックス的な商法は、功を奏していると言い難い。

【千】は、震災という歴史的事件を体験しているとはいえ、どこにでもいる冴えない若者だ。しかし【千】というキャラクターを必要以上にクローズ・アップしたことで、その存在が特殊性を帯びた。

人は誰しもが【千】であり、また【千】のように逆境を乗り越えられる――という、ドラマのメッセージが弱まってしまったのである。

また、肝心の歌自体も、ノスタルジーに酔っているばかりで、現実と向き合っていこうという意思が感じられない。 ついでに言うと《♪どこに行ってしまったんだろう》の語尾を「ぅオー」と強調する歌い回しも耳障り。テーマソングがこの出来では、ドラマ自体が安っぽくなってしまう。

そもそも、安倍なつみの起用はどうだろうか。

彼女の場合、モーニング娘。で活動していた時代から、歌も演技もそつなくこなしていた。一方でたびたびスキャンダルを起こすトラブルメーカーでもあったのだが、それらをマスキングしてしまう特有の清潔感に恵まれていた。

しかしアイドルとしてはともかく、女優としては、その気質が有利に働いていたとは言い難い。とくに『たからもの』では、そんな彼女の生来のキャラクターが役柄よりも先立ち、どうにも没入しきれていない感がある。

それでも童顔で親しみやすいルックスのため、ミスキャストにはなっていないけれど、むしろ妹の麻美のほうが似合っていたのでは。

(2016年2月27日 加筆修正)