この【ジェン】という妖精(?)は、おそらく映画史上もっとも情けない主人公だろう。味方が敵に襲われても、ただヒョコヒョコ逃げ回るだけ。碇シンジ君だって、いちおうエヴァに乗って戦うのに。

同じ種族であるはずのヒロイン【キーラ】は、歌声で動物を操ったり、羽根を広げて飛んだりできるのに、【ジェン】には何の取り柄もない。そんなわけだから、勇敢で行動力のある【キーラ】に、終始リードされっぱなしである。

ストーリーが山場を迎え、【キーラ】が敵に取り囲まれても、ただボケっと突っ立てるだけ。あげくのはてに、【キーラ】を目の前で殺されてしまうのだ。

あ~イライラする!

作品のフォーマットとしては「冒険モノ」だが、心躍るアクションも泣かせるシーンも意味深なテーマも何もなく、無味乾燥なストーリーがダラダラと進んでいく。いちおう世界を救うのは【ジェン】だが、おいしいところはみんな【キーラ】が持っていってしまったので、「ビルドゥングス・ロマン」としても成立しない。

殺されたはずの【キーラ】が、何もしていないのにヒョッコリ生き返るなんていうご都合主義にも苦笑を禁じえない。

『ダーククリスタル』はあくまでも映像美を堪能する作品なのだから、ストーリーの出来が悪いのは当たり前、そこに拘泥するのは野暮だ、という反論もあるだろう。

しかし、それは間違った認識である。観ていて次から次へと疑問や不満が湧いてしまうようでは、とても「映像美」とやらに酔いしれるどころではない。むしろこういう作品にこそ(たとえ型通りになってしまったとしても)手堅いストーリー作りやキャラクター造形が要求されるのではないか?