私は、この『富江最終章考』を通して、『富江 最終章 ~禁断の果実~』という映画の魅力を語っていきたいと思う。

しかし、ただ作品の内容を言及することだけに終始するつもりはない。

この映画に対してなされてきた、数々の(見当はずれな)批評は、「ホラー映画」と呼ばれるジャンル、ならびに「原作付きの映画作品」を論じるにあたって、重要な問題を多く孕んでいると考えるのだ。

今更説明するまでもないだろうが、『富江 最終章 ~禁断の果実~』は、ホラー漫画家、伊藤潤二の代表作『富江』を実写映画化した作品である。

物語は、いたってシンプル。何度殺されてもその度に甦る、【富江】という名前の美少女と、彼女に翻弄される人間たちが織りなす悲喜劇だ。

『最終章』となっているのは、『富江』の映画版がシリーズ化されていて、その最後を飾る作品という意味である。『富江 最終章』の前には、『富江』『富江 replay』『富江 rebirth』の3作品が公開された。すなわち『最終章』は、『富江』シリーズの第4作目にあたる(TVドラマの『富江 アナザフェイス』を含めると5作目)。ちなみに『最終章』の後にも『富江 THE BEGINNING』『富江 revenge』『富江VS富江』などの作品が発表されている。

『最終章』を含めた映画版『富江』シリーズは、それぞれ監督も出演者も違い、ストーリー上は何のつながりもない。『最終章』の監督は中原俊。【富江】を演じたのは、安藤希。宮崎あおいとのダブル主演ということでも話題になった(ちなみに安藤は、同じく伊藤潤二原作の実写映画『顔泥棒』でも主演を務めている)。

中原俊といえば、女子校を舞台にした青春映画『櫻の園』の大ヒットで知られるベテランだが、ホラーを手がけたのは『富江 最終章』が初めてである。

そんな中原が、この作品のテーマとして掲げたのは《ロリータとレズビアン》。

原作のスプラッターな表現はあえて抑え、安藤希と宮崎あおいによる甘美かつ退廃的な「百合表現」に力を入れることで、ホラーというよりもダークなファンタジー映画に近い仕上がりとなった。また中原はピンク映画出身の監督であるが、露骨にSEXを描くことはなく、あくまでも台詞や演出の妙でエロスを醸し出す。

――さて、ホラー映画マニアたちの間では「駄作の山」とされる伊藤潤二原作映画の中でも『富江 最終章』の評価は賛否両論であった。正確には、「否」が圧倒的に多い。

その理由は、主に4点。

  1. 「ホラー映画」なのに“ちっとも怖くない”ということ。
  2. 中原俊監督の作家性を加えたことで、伊藤潤二の世界観から大きく逸脱しているということ。
  3. 《ロリータとレズビアン》を売りにしておきながら“エロ描写”が淡泊であるということ。
  4. 【富江】役を務めた安藤希にセックス・アピールが乏しく、また共演者の宮崎あおいや國村隼と較べて感情表現も平坦であるため、端的に言って「大根役者」に見えてしまうということ。

私が『富江 最終章』を研究するにあたり、上記の4点を前提にした上で、話を進めたいと思う。

言うなれば、一つの作品を4通りの観点から論じることになる。それによって、作品の魅力を、より多面的に理解していただけるだろう。

(2015年2月7日 加筆修正)