★★★
小林泰三の原作小説から、猟奇的な描写の一切を削除し、幻想的なお伽話に仕上げた短編映画。
言うまでもなく、映像化作品を語る際には、原作とは「別物」として評価すべきである。原作にあったものが「ない」としても、作品として完成しているのであれば、それは「不足」にはならない。ましてや約45分という時間の制約があるのだから、原作の内容を余さず再現しようとすれば、消化不良になってしまいかねない。したがって、このアレンジは英断と言えるだろう。
映画版『玩具修理者』は、むしろ役者各々のキャラクターを楽しむべき作品である。
主演は田中麗奈。代表作の『がんばっていきまっしょい』や『はつ恋』などとは打って変わって、影のある大人の女性を演じている。普段の勝ち気で活発なイメージとは正反対だが、もともと演技の巧い人だけに違和感なくはまっている。彼女の別の側面を引き出したという点も、本作の見所と言えよう。
一方で、従来のイメージをうまく活かしているのが忍成修吾。その独特のたどたどしい口調や表情が、「魂をなくした少年」の役柄にピッタリだ。一見すると無表情な中に、溢れんばかりの情感がこめられている。あたかも名工の手による人形のようだ。
タイトルの「玩具修理者」とは、「どんなものでも」タダで直してくれる謎の男。直すさいに、なぜか全部分解するため、部品が度々入り交じる。そのせいで起こった厄介な出来事が、この物語の発端だ。
玩具修理者の姿は、ほとんど画面に映らず、顔もわからない。その声を、美輪明宏が担当している。
観る前の時点では、この人選はいささかミスキャストではないか? と思った。彼の潤いに満ちた豊かな声は、まるで貴族のようであり、上述の妖怪じみた胡散臭いイメージにはそぐわないからだ。
が、実際に観てみると、そのミスマッチこそ「玩具修理者」というキャラクターのもつ、掴みどころのないミステリアスなイメージをいっそう印象付けている。キャラクターのイメージに合わせて声優を選ぶのではなく、声優の技量がキャラクターを従わせてしまった、珍しい例といえよう。
ただ原作のイメージをそっくりなぞるだけなら、わざわざ映画化する必然性がない。人は小説を読むとき、心の中で視覚化を試みる。それぞれがいちばん見たいと思うものを思い描くのだから、そこに他人が介入する余地はない。
それならば、原作に新しい価値を与え、その世界観を膨らませる作品が望ましい。映画版『玩具修理者』は1時間足らずという短い作品ながら、いわゆる「原作付き映画」のあり方を考える上で、じつに有意義な内容となっている。