★★★
インディーズ出身のアクション映画監督、北村龍平の処女作品。
といっても、ほとんどの人たちは、『あずみ』や『ゴジラ FINAL WARS』を観た後で、さかのぼって本作に触れることになるのだろう。もちろん僕もそうだ。
主人公の男は、見知らぬチンピラ4人組に拉致され、人里離れた森に連れてこられる。
チンピラたちは、度々こうして人をさらってきては、「人間狩り」を楽しんできた。
「獲物」に与えられた選択肢は三つ。この樹海から逃げ延びるか、チンピラたちと戦って倒すか、それとも殺されるか。
男は逃走を試み、なんとか抵抗するものの、あえなく殺されてしまった。
ところが、男はなんとゾンビとして甦り、復讐を開始する──。
追う者と追われる者の立場が逆転する皮肉を描いた、ハード・ボイルドなスプラッター・ホラー。
低予算を逆手にとり、わざと粒子の粗い映像を使うことで、殺伐としたムードを醸し出している。
まぁ、ストーリーはありきたりだし、北村龍平自身を含めた役者たちにも華がない。
同じくインディーズ時代の出世作『VERSUS』と較べれば、ひたすら陰々滅々とした印象で、娯楽性に乏しい。
とはいえ、47分という時間の制約を考えれば、むしろ手堅くまとめた点を評価すべきだろう。
『DOWN TO HELL』の出演者たちは、みな台詞廻しや表情こそ素人そのものだが、そのぶんアクションに気合いを入れている。崖を滑り降りるシーンの迫力なんて、かなりものものだ。
また、引っぱり出された己の大腸で首を吊らされるなんていう、ルシオ・フルチばりの悪趣味演出にも、ハンパじゃないものを作りたいという気概が感じられる。
メジャー・デビュー以降の北村作品は、力を入れているアクション・シーンと、手を抜いているドラマ部分のギャップが激しく、いずれも散漫な印象を受けてしまうのも事実だ。そこをいくと、インディーズ時代の作品には、北村のやりたいことだけが詰まっている。そのため、皮肉なことに、むしろメジャー後の作品より完成度が高いようにすら見える。
もっとも、この『DOWN TO HELL』にせよ『VERSUS』にせよ、海外のアクション映画やホラー映画から目に付いた場面をカットし、つなぎ直しただけである。
彼の描く特有の「ハード・ボイルド」が滑稽に感じられるのも、それがしょせん借り物だからだ。
同じインディーズ出身の映画監督でも、本人以外には誰にも作れない作品を生み出す石井聰亙なんかと較べたら、どうしても小粒な印象を受けてしまう。
じつのところ北村龍平は、アーティストでもクリエイターでもなく、「技術屋」と呼ばれるにふさわしい。
お金や時間をかけなくても、“それなりに”見栄えのいい作品に仕上げる技術。演技力もスター性もない大根役者でも、“それなりに”カッコよく見せる技術。
早い話が、どれもゴマカシである。しかし、その要領の良さこそ、利潤追求団体である映画会社から重宝される所以なのだ。
そして、アマチュアの時分から、すでにそんな器用さを発揮していたという事実を、『DOWN TO HELL』という作品は物語っている。