DVD版のパッケージでは、石川佳奈と平井理央が「主演」であるかのごとくフィーチャーされている。ところが実際には、この二人は脇役にすぎない。しかも、石川にいたっては台詞すらない。映像特典のメイキングも、平井のインタビューばかりで、石川はほとんどオマケ扱いだ。どうも誠実な商売をしているとは言い難い。

せめて肝心のドラマがそれなりに“見られる”代物なら、納得のしようがあるのだが……。

湘南の海辺を舞台に繰り広げられる、瑞々しい青春ラブ・ストーリー――というのが、このドラマの主旨らしい。同じタイトルのDVDゲームとも連動し、メディア・ミックス的な展開を試みていたようだ。

タイトルの「TEACUPS」とは、石川佳奈と平井理央がバイトする喫茶店の名前。この物語の登場人物たちは、老若男女問わず、何かあるとすぐこの店に集まる。

女子高生の仲良し二人組【奈々】と【渚】も、TEACUPS の常連。ともに男性経験はゼロ。

ある日【奈々】は、級友の【ももこ】から合コンに誘われたことで、異性に興味を持ち始める。しかし、密かに【奈々】に恋心を寄せる【渚】は(そう、このドラマは「百合モノ」なのだ)、【奈々】が自分の元を離れていってしまうことを恐れ、猛反対。

それでも【奈々】は、【渚】の反対を押し切り、合コンへの参加を決意する。

だが、その合コンには【ももこ】の彼氏も参加していて、【奈々】を食い物にしようと狙っていた――。

収録時間は「42分」とクレジットされているが、それは映像特典も含めた長さで、ドラマ本編はたったの17分。

それにもかかわらず、このグズグズのプロットは何だ?

たとえば冒頭、【奈々】が後輩の女子からラブレターを渡される件も、後の展開には何の影響もなく、それっきり。脚本家を二人も雇っておきながら、こんな短いストーリーすらまとめられない無能さに呆れ果てる。

とにかく、このドラマの脚本家たちには、センスがない。

【ももこ】とその彼氏のベッド・シーンを、わざわざ入れる必要があるのか? また、その彼氏がTEACUPS で男友達とする会話も「(SEXが)5分も持たない」だの「ブーちゃん(デブ女)に人権はない」だの、えげつないことこのうえない。このドラマのセールス・ポイントであるはずの、湘南の爽やかなムードがぶち壊しだ。だいたい、彼氏が別の女に気移りしていることを知っていながら、【ももこ】がそれを止めようとしないのもおかしい。

演出もヘンだ。真昼のシーンで、いきなり画面が暗くなったと思ったら、なんとそれで「夜」を表現しているつもりらしい。夜間に撮影できない事情でもあったのだろうか?

おまけに夜の砂浜で、【奈々】が【ももこ】の彼氏に襲われているところに【渚】が駆けつけて助ける場面でも、困ったことに件の“技法”が用いられているのだ。このドラマのクライマックスだというのに、空が明るいまま「夜」と言われても緊迫感がまるで伝わってこない。

ドラマの出来にせよソフトの売り方にせよ、この制作者たちには、品性というものが欠如していると言うほかない。

ただ【奈々】を演じる榎園実穂(えのきぞの・みほ)の、初々しくひたむきな芝居には好感が持てた。終盤、【渚】の想いにうたれて泣く場面でも、目薬に頼らず、本当に涙を流している様子がメイキングに収められている。

そんな榎園は、NHKの朝ドラ『あすか』で竹内結子が務めた主人公の少女時代を演じて注目されたこともある。 『子役という仕事 その成功の方程式』(香取俊介 ジュリアン出版)という書籍に彼女の足跡が詳細に綴られている。