殺されても殺されても甦る【富江】は、人智を超えた存在、すなわち「悪魔」である。
もっとも、魔法を使ったり何かに化けたりといったことはできない。物語終盤で、イジメられっ子の【登美恵】と戦って耳を切り落とされてしまったのを見るかぎり、戦闘能力も低いと思われる。
とはいえ、ある種の超能力はもっているようだ。
不自由な体となり、廃屋に匿われている頃、学校で【登美恵】をイジメている3人組の一人に見つかってしまうという件がある。その時、【富江】は、こっそり【登美恵】に何かを耳打ちしている。これによって二人は、イジメっ子3人組の襲撃を受ける前に、東京へと逃げ延びることができた。
また、上京した後、バッグの中に入れられているにも関わらず、行き先に銀行があることを当てるという件もある。
【富江】には、予知や透視の力があるようだ。
だた、それにもかかわらず、【富江】はいつもあっさりと殺されてしまう。予知能力があるのだとすれば、事前に危険を避けることができるはずだが……?
おそらく【富江】は、自分が殺されることを知った上で、あえて相手を試しているのではないだろうか。
【富江】は、来るべき未来を知ることはできるが、人の思考を読み取ったり、ましてや操ったりする能力はない。
【富江】を殺すか否かは、あくまでも人間の側に委ねられているのだ。
だからこそ、【富江】と人間との間で「ゲーム」が成立するのである。
愛する者を自らの手で殺めることこそ、最大の罪。そして、自ら手を汚すことなく、人に罪を背負わせることこそが、究極の悪である。
不死身の【富江】にとっては、自らの生命すらゲームの材料にすぎない。究極の悪を全うすることこそ【富江】が自らに課した使命なのだから。
だが、その一方で、【富江】の挑発的な言動は、祈りにも似た想いの裏返しであるようにも思える。
私を愛しているのなら、どんなに悪態をついたって、けっして裏切らないはずだ――。
しかし、その祈りが届くことはない。尽きることのない無償の愛を求め、【富江】は再びこの世を彷徨う。
永遠の美貌と生命という、人間の理想を体現する【富江】の生き様は、同時に、終わることなき哀しみに彩られている。