★★

冴えない中年サラリーマンが、ある夜、殺人事件の現場に遭遇したことから、殺し屋のチームに引き入れられる──という筋書きのクライム・アクション。

殺し屋を主人公にしておきながら、そのタイトルは『汝殺すなかれ』。洒落たネーミング・センスが目を惹いた。

主人公は、相棒の恋人に言い寄られても頑として拒むほど、まさしく絵に描いたような堅物男。

そんな彼は、もちろん犯罪のニオイとも無縁だが、意外にあっさりと殺人をこなしていく。日頃は画家を志している相棒の、いかにもアウトローじみた風貌との対比も面白い。

相棒の恋人を演じるのは、石堂夏央。強い眼差しと短い髪が印象的で、ボーイッシュな雰囲気を漂わせる女優だ。デビュー作『オートバイ少女』で、無骨な主人公を好演していた石堂は、本作でも飾りっ気のないクールな女性を演じている。

それでいて、親子ほど歳の離れた主人公とのやりとりでは、年相応の女のコらしい可憐な表情も見せ、殺伐とした世界観に彩りを加えている。

こうした魅力的なキャラクターたちの活躍によって、物語の途中までは惹き込まれた。

が、殺し屋チームは突如解散、石堂が何者かによって殺される。それからというもの、どうもわけのわからない方向へ進んでしまうのだ。

なんと、殺し屋チームに仕事を依頼したのは、他ならぬ主人公自身であった。

あの夜、殺しの現場を目撃したのも偶然ではなく、憎い相手が殺される様を見届けたかったのだという。

しかし復讐を果たすために、殺し屋のような裏社会の住人を利用する時点で、もう主人公は「カタギ」ではない。これによって「うだつの上がらないマジメ男が淡々と殺人をこなしていく」という、物語のキモが台無しになってしまった。だいたい、いくら依頼人とは言え、どこで殺しが行われるかという重要な機密情報が漏れている時点でおかしい。

安易にドンデン返しを狙ったあまり、それまで築き上げてきた世界をすべてブチ壊してしまった、じつにもったいない作品である。