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原題は『HAXAN』。1922年にデンマークで制作された、モノクロのサイレント・ムービーである。
《魔女》をテーマに、中世ヨーロッパの宗教観、サバト(魔宴)、魔女狩り、宗教裁判といった情報を、図版や再現ドラマを用いて解説する。
BGMにはクラシックの有名曲が使われているが、作品のテーマがテーマだけに、シューベルトの『未完成交響曲』やベートーベンの『月光』といった、暗めの曲をあえて選んでいるようだ。
見所は、サバトのシーン。不気味な姿をした悪魔たちが魔女たちと戯れる様は、怖いというより、なんだかとても楽しそうだ。なにせ大昔の映画なので着ぐるみの出来は野暮ったいけれど、それがプラスに作用し、黒魔術の胡散臭い雰囲気を醸し出すことに成功している。
とはいえ、サバトのシーンは全体のごく一部でしかない。大部分を占めるのは、魔女狩りおよび宗教裁判の再現ドラマ。しかし、それが退屈このうえないのだ。幻想的なサバト描写の後に、泥臭い人間模様が延々続くので、観ている側のテンションはすっかりだらけてしまう。
ところで、魔女狩りをテーマにした映画は、あまりにも陰惨かつグロテスクなものが多いので、個人的にはどうしても敬遠してしまう。しかし『魔女』の場合は、「着ぐるみ悪魔」のチープさを見ればわかるとおり、まだ特殊メイクの技術が未発達な時代に作られた作品なので、宗教裁判における拷問の凄惨さを再現するにはいたっていない。拷問器具も、ドラマの中では登場せず、あくまでも使い方を説明するだけだ。その意味では、安心して観ていられる。
『魔女』は七つの章に分けられており、最後の章では、現代的視点に基づいて魔女や憑依現象を分析している。
いわゆる《悪魔憑き》は、精神疾患が引き起こすものなのだという。しかし、精神病者の女が宝石店で万引きするエピソードは、あきらかに蛇足だ。そんなのは魔女ともオカルトとも何の関係もない。ただでさえ冗漫な内容が、よけいに長ったらしく感じられてしまう。
そういった退屈なシーンがあるおかげで、サバト描写の出来映えが際立つとも言えるかもしれない。が、約1時間40分もあるのは長すぎる。ただでさえサイレント映画は眠くなるのだから、せめて1時間くらいにまとめてくれないだろうか……。
私と同じことを考える人がやはりいたようで、公開から46年経った1968年に、30分近く短縮して再発される。それにあたって、タイトルが『WITCHCRAFT THROUGH THE AGES』に変更された(「THE CRITERION COLLECTION」というメーカーから出ている『HAXAN』のDVDに同時収録)。
短縮版とはいえ、元の映像を早送りしているだけなので、オリジナルに収録されていたシーンは一切カットされていない。しかも、作家ウィリアム・バロウズのナレーションや、ジャン=リュック・ポンティのフリー・ジャズ調BGMも加えられている。オリジナルがサイレント映画だからこそできた芸当だろう。