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骨董屋でアルバイトする画学生が、「呪われし器物」に宿る美少女【コゼット】の亡霊に苛まれる――という筋書きのOVA作品(全3話)。

筋書きからすると、地味な内容を想像する。しかし、それだけだとイマドキのホラー・ファンには刺激不足だと考えたのか、豪華な見せ場が盛り込んである。

苦悩する主人公の心象風景を、あたかも魔界を思わせる壮大なスケールで描く。デーモンと化した主人公が、【コゼット】の断罪によって派手に血しぶきを上げる、という趣向だ。

そうした荒唐無稽な演出を試みるならば、観る者のテンションを、それに応じたレベルにまで引き上げなければならない。しかし、本作の場合、「骨董屋」というこぢんまりとしたシチュエーションと、過剰なほど広大な心象風景との間に、ギャップが生じている。イメージの飛躍についていけないのだ。

どうも、観客への過剰なサービスが裏目に出てしまったように思われる。シチュエーションの規模を考えたなら、むしろ《地味だけれども心に余韻を残す作品》に仕上げるべきだったのではないか。

ケータイのカメラ越しに見る風景や、並べられたグラスに映っては消えていく少女の姿など、なかなか凝った演出も散見するだけに、その方向を究められなかったのが悔やまれてならない。

物語のオチも、よくわからない。

【コゼット】は、主人公を苦しめた罪悪感から、ストーリーの途中から姿を消してしまう。

以降、主人公の前に現れるのは、【コゼット】の虚像だ。

狂気の画家によって描かれた【コゼット】の肖像画は、いつしかそれ自体が、独立した生命を持つようになっていたのである。

事の真相に気付いた主人公は、自らの筆で【コゼット】をキャンバスに“描く”ことによって、虚像を否定し、消滅させる。このアイディア自体は、主人公が画学生であるという設定を活かしていて、面白いと思う。

が、どうも引っかかる。

主人公が新たに【コゼット】を描いたとしても、それはただもう一つの「虚像」を作り出したにすぎない。

【コゼット】という、実在する人物の魂を成仏させることにはならない。けっきょくのところ、根本的な解決にはなっていないのだ。

日本固有のファッションである「ゴスロリ」に着目した、新房昭之監督のセンスは間違っていない。しかし、悲しいかな、その志に力量が追いつかなかったようだ。

それでも『コゼットの肖像』を「駄作」として切り捨てる気になれないのは、ひとえに、コゼットを演じた井上麻里奈の力量にほかならない。

ときに無邪気に、ときに妖しく、主人公を闇の世界へと誘う少女を、巧みに演じた。

制作当時、若干19歳。経歴を見ると、高校の演劇部に所属していたていどで、プロとしては本作が初仕事だったとのことだが、とても信じられないほどのハマりっぷりだ。

また、エンディング・テーマの『宝石』と挿入歌の『Ballad』(作詞・作曲・編曲は梶浦由記)を、井上自身が歌っているのだが、その歌唱力も特筆に価する。潤いに溢れた歌声には、すでに新人らしからぬ風格すら漂う。

なお、本作の予告編的DVD『コゼットの肖像 00』には、『宝石』のビデオ・クリップが収められている。

魔女に扮した井上が、魔法使いの楽隊を従えて、お城や森や海辺で歌い上げるムーディーな趣向。ハッキリ言って、本編である『コゼットの肖像』よりも濃厚に、ゴシック・ロマンの魅力を伝えてくれる。