★★
プロレス・オタクの主人公【紀雄】と、“不思議ちゃん”の恋人【綾子】の同棲生活をコメディ・タッチで描く、60分弱の短編映画。
短編映画は90分前後の中篇作品とは違ったまとめ方・見せ方をしなければならないが、この映画の場合は、コントの寄せ集めといった感じでストーリーの体をなしていない。
主人公カップルを始めとして、ヘンテコなキャラクターが登場し、ただひたすらヘンテコなことをする。それ以外には何の意味もない映像の垂れ流しである。
【綾子】が【紀雄】に隠していた「秘密」というのが、たんに5歳年齢が離れていただけというのにも拍子抜けだった。実年齢24歳の女優が現役18歳の女優と並んで「女子高生」を演じることが当たり前の映画表現において(『放郷物語』のことです)、そのていどの「真相」には何の説得力もない。
そんなわけだから、ラスト・シーンで【紀雄】が泣きじゃくる理由もさっぱりわからない。
【紀雄】のプロレス仲間の発言から、【綾子】の“高齢”を理由に大学を出たと同時に結婚しなければならないということはわかる。加えて、おそらくその結果、趣味に費やす時間や金が削られるかも……という想像もできるだろうが、【綾子】は【綾子】で【紀雄】の趣味に干渉せずマイペースに生きているようだし、とくに結婚願望もないようなので、彼女の存在がそうした足かせになるとは考えにくい。これではmeixianGによるアコースティック・バラードで感傷的なムードを作ろうにも空回りだ。
さて【紀雄】のプロレス仲間の妹を、安藤希が演じている。
【紀雄】に一方的な恋心を抱いているようだが、ストーカーの気があるらしく、【綾子】と暮らすアパートの部屋に不法侵入しようとする。【綾子】の「秘密」を暴き立てた、ストーリー上重要な役柄でもあり、作品冒頭のタイトル・バックでは脇役であるにも関わらずバッチリ収まっている。
劇中で安藤は、二十歳過ぎてもロリータ系のヒラヒラとしたスカートを履き、聞き取れないくらいか細い声で喋る。元々が童顔なのに加え、その佇まいはあたかも幽霊のようであり、『富江 最終章 ~禁断の果実~』など数々のホラー映画や怪奇映画に出演した経験をもつ安藤にはうってつけのハマリ役と言える。
ちなみに『富江 最終章』は、安藤扮するバイセクシュアルの女悪魔【富江】が宮崎あおい演じる孤独な女子高生とその父親を誘惑するという筋書きであったが、本作で【紀雄】を演じた高岡蒼佑は、後に宮崎と結婚する(けっきょく離婚してしまったが)。なんだか奇妙な縁を感じてしまうのは私だけだろうか。