富江最終章考 補遺:原作者・伊藤潤二が語る『富江』|柘榴ノ杜
ホラー漫画家・伊藤潤二を評する言葉といえば「天才」「鬼才」「孤高」などが挙げられるだろう。 私はそれらに異議を唱える者ではない。だが、そうした賛辞がかならずしも伊藤作品の“無謬性”を意味しないことは指摘しておかなければならない。 否、むしろ伊藤は《欠点を個性に変える作家》と言える。 『富江』単行本あとがきより引用(朝日ソノラマ 249ページ): ところで富江の細胞が増殖して、その個体数が増えるとい […]
富江最終章考 補遺:『アンとマリーの物語』|柘榴ノ杜
『富江 最終章』において、特筆すべき演出は多々あるが、その中でも印象的なのは、小説家を志す【登美恵】の作品『アンとマリーの物語』(正式なタイトルは不明)を劇中の随所に挿入することで、【登美恵】が現実と妄想の境界線を踏み外していく様が、より効果的に描かれていることである。 あの【富江】でさえ認めた【登美恵】の文才であるが、残念ながら劇中では断片的に引用されているだけなので、その全容を知ることはできな […]
富江最終章考 補遺:『富江 最終章』のユーモア|柘榴ノ杜
伊藤潤二のホラー漫画に、ある種のユーモアが内在していることは、熱心なファンの間で常々指摘されてきたことだ。 伊藤作品が「ギャグ漫画」として読めるという意味ではない。 ギャグとユーモアは違う。腹を抱えて笑うようなものではなく、どこか人を食った軽妙な雰囲気を醸し出しているということだ。 ただ陰惨なだけのスプラッターではなく、そこに“可笑しさ”を取り入れることで、伊藤作品は一筋縄ではいかない、複雑な魅力 […]
富江最終章考:母親不在のドラマ|柘榴ノ杜
夕暮れの公園で、【富江】と【登美恵】が草むらに寝そべり、柘榴の実を食べるシーンは、『富江 最終章』のハイライトの一つである。 「柘榴って、人間の味がするんだって」 ――いつまでも耳から離れない、この印象的な台詞の「元ネタ」は、日本古来から伝わる、鬼子母神の物語だ。 * * * 鬼子母神伝説の起源は、古代インドまでさかのぼる。 鬼子母神は、釈迦の唱えた『法華経』という経の中に登場する女神である。 ち […]
富江最終章考:凍結される美少女|柘榴ノ杜
ホラー漫画家・伊藤潤二の魅力とは何か、と問われれば、あの繊細な絵柄に尽きると思う。 古風なタッチで描かれる美少女たちは、ともすればたんなる悪趣味に終始してしまうグロテスクな作風に、深い味わいを加えている。 裏を返せば、あえて「あの絵柄」を用いて、オドロオドロしい世界観を描写するというミスマッチの妙。 そこのところを理解しないと、『うずまき』の実写版みたいに、ただ奇を衒っただけの独りよがりな素人映画 […]
富江最終章考:ロリータとレズビアン(8)|柘榴ノ杜
「氷中花」の美しさに心奪われる、【和彦】と【登美恵】。 【登美恵】が、ふと漏らした。 「こうやって――見てるだけでいい」 頷く【和彦】。 二人は、まだ【富江】を愛していた。 しかし、以前のように生身の人間として交際することは望まない。 ただ眺めるだけの、一方的な関係――。 人間にとって、それが悪魔との適切な距離なのかもしれない。 ふと、【和彦】は氷の棺と向き合う。 【富江】の美しい死顔を眺めようと […]
富江最終章考:ロリータとレズビアン(7)|柘榴ノ杜
逃避行から1ヶ月ほど経ったある夜。 登美恵の家にイジメっ子3人組が押し掛ける。 だが、彼女たちを出迎えたのは【登美恵】でなく、【和彦】だった。 3人は【登美恵】の友人を名乗り、【登美恵】との面会を求める。しかし、その中の一人がボーガンを手にしていることから、【和彦】は、彼女たちが【登美恵】に危害を加えようとしていることに気付く。 面会を拒絶され、逆上した3人は、【和彦】に襲いかかった。 が、【和彦 […]
富江最終章考:ロリータとレズビアン(6)|柘榴ノ杜
【登美恵】は、けっきょく夜が明けるまで、けなげに【富江】を待ち続けた。 しかし、昨夜、階下から聞こえた大きな物音は何だったのか――? とうとう不安に耐え切れなく【登美恵】は、【富江】の言いつけを破って自ら束縛を解き、部屋を出る。 解体した【富江】の亡骸を廃棄し、家に戻った【和彦】は、降りてきた【登美恵】を【富江】と錯覚し、その首を締めつける。 これは、初めて人を殺め、憔悴しきったゆえの行動であるが […]
富江最終章考:ロリータとレズビアン(5)|柘榴ノ杜
私たちが生きる現代社会において、レズビアンは元よりバイセクシュアルについても根強い偏見が蔓延っている。 特に後者は、しばしば《性別を超えた愛》などといったふうに“美化”されがちだ。 むろんそれこそただの“偏見”であり、現実のバイセクシュアル当事者の社会的認知には何ら繋がるものではない。 とはいえ、【富江】を《人間の欲望の具現化》と解釈する上では、そうした非当事者の無責任な“幻想”もまた、【富江】の […]
富江最終章考:ロリータとレズビアン(4)|柘榴ノ杜
すでに述べたとおり【富江】とは、【登美恵】のドッペルゲンガーである。 だからこそ、【富江】は【登美恵】と同性でなくてはならない。もし【富江】が「男」だったとしたら、その時点で完全な「他者」となってしまうからだ。 【登美恵】には異性の恋人はおろか、友人すらいない。この世界で【登美恵】と関わりを持つ異性は、父親の【和彦】だけである。だが【登美恵】は、自分の周りにバリアーを張って、実の父でさえ受け入れよ […]
富江最終章考:ロリータとレズビアン(3)|柘榴ノ杜
【登美恵】の書いた小説には、主人公が人肉を食べるというエピソードが出てくる。 そこで【富江】は、【登美恵】に問う。 「ねぇ。人の肉って、食べたことある?」 「ないよ、そんなの」 「ないのに書いてるんだ」 「富江さんは食べたことあるの?」 そう訊かれると、【富江】は意味深な微笑みを浮かべながら、 「今度食べさせてあげる」 と約束した。 日が変わり、公園で遊ぶ二人。 もっとも“遊ぶ”と言ったって、【登 […]
富江最終章考:ロリータとレズビアン(2)|柘榴ノ杜
さて、以上のことを踏まえた上で、物語を紐解いていこう。 宮崎あおい演じる、内気な女子高生【登美恵】は、学校ではイジメられ、唯一の肉親である父親にも心を開けず、暗い日常を送っていた。 そんな【登美恵】にとって、心の拠り所は、耽美と幻想の世界にしかない。 日々、デカダンスな絵画を眺めては妄想に耽る登美恵は、それだけでは飽きたらず、彼女自身も小説家を志し、虚構の世界にいっそう耽溺していった。 ある日、学 […]
